Listening & Reading Test(以下、TOEIC L&R)として有名なTOEIC ですが、オンライン会議化が進み、近年スピーキングテストにも注目が集まっています。
そこで、今回はTOEIC Programを日本で普及しているIIBC IP事業本部 IP普及ユニットマネージャーの永井様にTOEIC Speaking Testの特徴や試験対策、活用方法などを伺いました。
TOEIC Programは「AI監視サービス」を導入して、オンライン試験のセキュリティ対策を行っている
―これまでの永井様のTOEICスピーキングテストに関する活動を教えてください。
TOEIC Speaking&Writing Testsは2007年1月に開始しました。
ちょうど2000年頃から英語を社内の公用語にする企業も出始め、日本やアジアの他の国の企業から「アウトプットの力を測るテストを開発してほしい」と要請を受けるようになりました。そのような背景から、ETS(米国 ニュージャージ州)と協議して、試験を開発しました。
私は当時IPテスト(団体受験)の普及担当だったので、高校、大学、企業向けに、TOEIC Listening & Reading Testに加え、TOEIC Speaking & Writing Testsの活用を提案する活動を行ってきました。
―近年TOEIC Speaking Testの需要は増えていますか?
スピーキングテストの需要は着実に増えています。
企業の海外市場の本格的な進出やグローバル展開が進み、社員の方々が現地の方とコミュニュケーションをする機会が増えているためです。
コロナ状況下においても、Zoomなどのオンライン会議が一気に浸透しました。
以前は会社の限られたメンバーが海外に出張する場面が多い状況でしたが、今ではオンライン会議に様々な部門の方が参加することで、英語で現地の方と会話する機会が増えています。
―TOEIC Speaking Testはオンラインでも受験可能でしょうか?
企業・大学向けの団体受験がオンラインで受験可能です。これまでは団体向けにモバイルパソコンをお送りして、20、30台をセットアップする必要があり、ご担当者の皆様にご負担をかけておりました。
しかし、2020年の4月からはオンラインでの受験が可能になり、よりスムーズにスピーキングテストを受けていただくことができるようになりました。
オンライン受験を開始してからは「本人確認」や「不正の防止」が課題となりましたが、「AI監視サービス」を開始することでテストのセキュリティ向上を図りました。
AI監視サービスは、パソコンのウェブカメラで本人確認書類と受験者の顔を撮影して本人確認を行い、試験中は替え玉や目線の動きなどをAIが解析して、不正をチェックする仕組みです。
その結果、自宅受験であっても昇進・昇格などの重要な目的にテスト結果が利用できるようになりました。
現在では、オンラインテストを導入している1600社のうち、400社以上がAI監視を利用しています。
TOEIC Speaking Testは、「伝わる英語力」を人が正確に採点している
―TOEIC Speaking Testの特徴について教えてください。
TOEIC Speaking Testは英語の正確さだけではなく、「伝わる英語力を人が採点している」という特徴があります。
ただ単に語彙や文法が正確である、英会話ができるというだけでは、ビジネスには通用しません。
英語のノンネイティブスピーカーとして多少の間違いや未熟さがあったとしても、きちんと相手に自分の言いたいことが伝わるかどうかが重要なことなのです。
より高いスコアになると話の論理性や場に応じた話し方ができるかなど、高度なコミュニュケーション能力も評価の対象になります。
自由回答なので100人いれば100通り回答があり、それを機械ではなく人が採点することで「聞き手にきちんと内容が伝わっているか」「与えられた課題を達成しているか」という内容面も正確に測定することができるのです。
採点に関しても評価が偏らないように受験者の解答を切り分け、異なる採点者が評価を行っています。そのため、1名の受験者の解答に対して、8名~10名の採点者が評価を行っています。
そして、約7名の採点者に1名のスコアリングリーダーがつき、評価者間にブレがないかをチェックしています。一例ではありますが、このようにしてスコアの信頼性を保っています。
―TOEIC Speaking Testが多くの方から選ばれる理由について教えてください。
3つの理由が挙げられます。
1つ目は、TOEIC Programがグローバルで活用され、信頼と実績があることです。
TOEIC Programは世界160カ国で実施され、日本国内では年間約240万人の方が受験しています。多くの企業で昇進・昇格・海外赴任の条件として採用されていることに加え、大学ではクラス分け、単位認定、就職支援の目的で導入されています。
また、先程申し上げましたように、企業のニーズに応じてETSと協議して開発しました。
ETSは世界最大の教育テスト開発機関で、TOEIC ProgramだけでなくTOFEL、GREも開発している、高い専門性を持つ団体です。
2つ目はTOEIC Speaking Testの評価方法について支持を得ていることです。
TOEIC Speaking Testは人が評価しているため、ただ単に単語や文法が正しい英語ではなく、相手に伝わる英語と目的を果たすための英語コミュニケーション力を重視しています。英語は正確であっても、相手の聞きたいことに答えていなかったり、あるいは高圧的な言い回しになっていたりすることがあります。
自動翻訳、自動採点技術が進化している中においても、グローバルビジネスにおいてきちんと相手とコミュニケーションをとる力を評価するには、今はまだ人が採点に関わる必要があると考えています。
3つ目は、スコアで結果を算出しているため、研修の効果測定を行った時に伸長度を測れるので、昇進・昇格や研修の受講要件・効果測定などの基準に企業独自のニーズに合わせた設定ができることです。
例えば、ある商社では海外派遣基準としてTOEIC L&Rで730点、TOEIC Speakingでは130点、TOEIC Writingでは140点と設定しています。このように、現在利用しているTOEIC L&Rテストのスコアを起点に、部門のニーズに応じたスコアを設定できます。
―TOEICのL&Rで730点、TOEIC Speakingで130点というのが、多くの企業が設定されている一般的な指標ですか?
TOEIC Speakingで130点という基準は「限定された範囲ではあるが、業務上のコミュニュケーションができるレベル」で、短期の海外出張に対応できるレベルです。
仕事で英語を使うためには130点が一つの入り口になるということで、多くの企業がそのような設定をしている状況です。そのほか、TOEIC L&R 600点台に到達したら、TOEIC Speakingも受験し、総合的に英語力を高めるような取り組みが増えています。
このように、まずはインプットの英語力を鍛え、仕上げとしてTOEIC Speakingを活用して英語を話せることを目標にするなど、英語で仕事ができる人材を輩出したいという企業が増えています。
―個人の方は、どのような目的で受験されることが多いですか?
公開テストで実施しているアンケートをみると、大学入試や就職活動、企業の昇進・昇格で求められているという受験目的が最も多いです。ただし、見逃せないのは「自分のスピーキング力を測定したい。」という方も多いことです。
特に英語のスピーキング能力を客観的に評価して把握できる機会は限られていますので、「純粋に力試しがしたい。」という理由で多くの方が受験しているのです。
「手持ちの英語を使うこと」「マインドセット」がTOEIC Speaking対策のカギになる
―TOEIC Speakingを受験される方には、どのようなテスト対策が有効なのでしょうか?
やはり出題形式に慣れることは大事なので、公式教材に載っている問題を繰り返し解くのは効果的です。
それを前提としつつ、TOEIC Speakingは、世界各国のネイティブ、ノンネイティブが英語を使用する状況を調査して、そこで求められる英語力を凝縮して出題しています。つまり、試験の内容は日常生活からビジネスにまで使われる英語力をそのまま反映しているのです。
しかし、決して高度な英語力を求めているわけではなくて、ノンネイティブとして伝わる英語力が求められています。「自分の手持ちの英語」を使って伝えればきちんと評価されます。
もう一つ大事なことはマインドセットです。
先程TOEIC Speakingは「ノンネイティブスピーカーの英語力を測る」というコンセプトをお伝えしました。
しかし最初から「完璧に話そう」という考えは持たなくても大丈夫です。
初級者の方は自信がないため小さな声で話しがちです。はっきり自分の意見をゆっくりでもいいので伝えることで加点評価されますので、そのようなマインドを持って受験することが大切です。
―私たちはイングリッシュブートキャンプを運営し、英語を話すマインドから構造的に話す力までを徹底的に強化する訓練を行っています。そのことについてはどう思われますか?
イングリッシュブートキャンプで行っていることは実践に役立つ、非常に大事なことだと思います。
自分の持っている英語力を土台にして、企業内の様々な業務知識や専門用語、ファシリテーション、ネゴシエーション、プレゼンテーション、異文化間のリーダーシップなどを上乗せし、はじめて仕事ができる人材を育てることができるのです。イングリッシュブートキャンプでは、そのようなスキルが徹底的に鍛えられると感じています。
―イングリッシュブートキャンプではベストな英語の言い回しがわからなくても「セカンドベスト」つまり次善の策でいいので、まずは伝えようとする姿勢を重視しています。TOEIC Speakingの世界観や哲学と非常に似通っているところがありますよね?
本当にそうだと思います。
TOEIC Speakingも、相手に伝わる英語力を重視しています。
仕事で海外に行かれる際には、最初から完璧な英語を話すことはできませんし、相手もそれを求めているわけではありません。大切なのは話の内容です。
英語の正確さを決して否定しているわけではありませんが、
まずは「手持ちの英語」でやりとりをする、その姿勢が大事なのです。
時間制限内に終わらなくても、課題をこなしていれば高いスコアを狙える
―写真描写問題には時間制限があるのですけれども、無言の時間を作らないようにできるだけ英語を話し続けたほうが、スコアが伸びることはありますか?
スピーキングの写真描写問題は、見たものをとにかく英語で表現していくというタスクですので、最後まで時間を使い切ってお話ししていただくことをおすすめします。
しかし、所要時間をすべて満たさなかったとしても、与えられた課題を達成していれば、最高評価をとることは可能です。無言の時間が多少残っていても問題ありません。
英語学習のPDCAツールとして効果的に使っていただきたい
―TOEIC Programを今後受験される方にアドバイスやメッセージをお願いします。
英語学習を始めようと思った人、あるいはTOEIC L&Rで目標のスコアを達成した方は、TOEIC Speaking & Writing Testsを受験することがおすすめです。
英語学習は「自分のスタート地点を知るところ」から始まります。
TOEIC Speakingでご自身のレベルをまず知っていただくことで、初めて目標を設定して学習計画を立てることができるのです。
テストを受験してみると、「自分がどこまでできたのか」「どこでつまずいたのか」がわかりますので、そうした課題を分析しながら英語学習のPDCAツールとして効果的に使っていただきたいと思います。
ぜひ、皆様の目標の実現にTOEIC Programを役立てていただきたいです。
―ありがとうございました。
-インタビュアー紹介:児玉教仁
イングリッシュブートキャンプ株式会社 代表取締役
ハーバード経営大学院 ジャパン・アドバイザリー・ボードメンバー
DIAMONDハーバード・ビジネス・レビュー アドバイザー